感想について。

2003年5月6日
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作者は、俺が結構気に入ってる浅田次郎という方である。
この人は、自衛隊、極道、ねずみ講の幹部など、小説には一見結びつかないような世界を歩いてきた人である。

さて、バトルロワイヤルという映画があった。
小説版のほうは俺は見ていないが、映画は絶賛されていた。俺も確かに見たが、大して面白くもなんとも感じなかった。
技法や演技、演出にもさまざまにこだわっていたし、発想や心理描写もすばらしいのかもしれない。だが、俺の中では普通の作品以外の何物にも感じれなかった。

そして、日輪の遺産がある。こちらは、技術としては少々見劣りする部分もあるかもしれない。それは作者としては転換期の作品であり、まだデビューしてから間もないころの作品だからだ。だが、俺は日輪の遺産のほうが面白かった。

 違いはなんだろうか。テーマの重さの違いだろうか。
日輪の遺産は、第二次世界大戦の終戦時における森脇女学校の1クラスの話を基本に据えて展開している。
そして、バトルロワイヤルは狂った現実世界の中学校の1クラスが主人公たちだ。

 最終的にはどちらのクラスもほぼ全員が死んでしまう。

 言いたい事はそれぞれ違うと思う。

 と、いうより、俺はバトルロワイヤルから何が言いたいかを読み取れなかった。ただ、残虐なシーンがあり、恐怖感があり、現実感があった。「TVゲームの世界がすぐそばに迫ってるよ」というだけで、それがどうしたのだろうと俺は思った。作者の本当の言いたい事が、いまいち映画を通じてはわからなかった・・・。

 それと比べて、なんというか、浅田次郎は、いつも言いたいことが小説の中にある。そして、それをさまざまな手法で俺に語りかけてくる。

「(自分が成している事、成せる事の)誇りを持て」と、俺は感じ取っている。
無論、これは彼が言いたいことの一部分であり、俺の口を通して人に説明しようと思っても、彼ほど上手く説明はできない。

 映画のバトルロワイヤルと、小説の日輪の遺産を比べたのは、そのままその作品の味わい方の違いに属すると思う。

映画やTVは受身の娯楽に終わるものが多い。そして、楽しさと受身の娯楽の集大成がバトルロワイヤルのように俺は感じてしまった。無論、映画を山のように見る方ではないので、集大成としての作品ならまだ他にもたくさんあるだろう。

小説などの文字で書かれた本を読む楽しみは、文字を読み取り、想像し、理解し、そして考えることに楽しみがある。何も偉い学者さんの意見の丸写しではない。そう実感したのだ。

最近の小説は、映画に近づこうと頑張っている。そして、映画はもっと現実のようになろうと頑張っている。

 そんな小説や、映画の感想というのは、「楽しかった」「つまらなかった」「あのシーンが気に入らない」程度で終わってしまう。
自分で考える必要はないからだ。

 浅田次郎は、俺の親父より一回りか、二回り上の世代の人間である。今、本当の小説の楽しみを伝えてくれる、現役の作家の一人ではないだろうか。と俺は思う。

感想が山のようにあふれる小説じゃない限り、俺は面白いとは思わない。

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